その3.ベルギービールの分類と傾向

主要な銘柄だけで700種類。“厳密には分類不可能”と言われるほどバラエティ豊かなベルギービール。人によっても分け方は異なりますが、イギリスのライター、マイケル・ジャクソン氏(米国の歌手とは別人)の分類を参考に、大まかな分類とそれぞれの違いをご説明しておきます!

予備知識:発酵タイプ(ラガー・エール・ランビック)の違いと性質

ベルギービールに限らず、ビールの発酵方法は使用する酵母の違いから「ラガー」「エール」「ランビック」の3つに大分できます。ベルギービールにはこの全てのタイプがあります。

ラガー(下面発酵)

発酵が終わると底に沈殿する「下面発酵酵母」というタイプの酵母を使う製法です。気温10度以下の低温で時間をかけて発酵させ、貯蔵工程で熟成させます。切れのよい苦みとなめらかでマイルドな味が特徴。大量生産にも向いており、ラガーの一種でチェコ発祥のピルスナータイプは、世界で消費されるビールの大半を占めています。

エール(上面発酵)

発酵と共に発酵層が浮上する「上面発酵酵母」というタイプの酵母を使う製法です。20度前後の常温で2週間程度で発酵させます。ラガーに比べ製造しやすく、フルーティーな香り・甘み・コクがあるなどの特徴があります。また、ホップに限らず様々なスパイス・ハーブで味付けをするのも特徴と言えるでしょう。19世紀以降、ラガーが爆発的に普及するまでは、ビールと言えばエールが中心でした。ベルギービールも大半はエールに分類されます。

ランビック(自然発酵)

ブリュッセル西南部、バヨッテンランド地域のゼナ川周辺だけで醸造される自然発酵のビールです。純粋培養した酵母ではなく、周辺に生息する野生酵母とバクテリアを使って、樽の中で1年から数年かけて発酵させます。また、苦みの強い新しいホップだけではなく、酸化した古いホップを使います。果実なども良く用いられ、強い酸味と、特徴的な香りを持ったビールが多く、ベルギービールの中でも特に人気を博しています。

ベルギービールの分類その1:トラピストビール

トラピスト会修道院で作られるエールタイプのビール。瓶内発酵熟成が行われ年数や保管条件で味が異なる、度数が高いものが多い、聖杯型のグラスを用いる、などの特徴があります。正式にトラピストビールと名乗れるのは、世界で7カ所の醸造所(修道院)に限定されており、そのうちの6カ所がベルギーにあります。また、シント・シクスタス修道院以外は、ベルギー南部(ワロン地域)に立地します。

主なブランド [醸造所]

シメイ [ スクールモン修道院醸造所 ]
ロシュフォール [ サン・レミ修道院醸造所 ]
ウェストマール [ ウェストマール修道院醸造所 ]
ウェストフレテレン [ シント・シクスタス修道院醸造所 ]
オルヴァル [ オルヴァル修道院醸造所 ]
アヘル [ ベネジクトゥス修道院アヘル醸造所 ]

ベルギービールの分類その2:アベイ(アビィ)ビール

アベイビールは修道院ビールとも言われ、上記トラピスト修道院以外の醸造所で、同じような製法で作られたビールです。本来の蔵元だけでなく、他の醸造所に委託して生産していることも多いです。

主なブランド [醸造所]

レフ [ レフ修道院醸造所 ]
グリムベルゲン [ グリムベルゲン修道院 ]
マレッツ [ マレッツ修道院 ]
セント・ベルナルデュス [ セント・ベルナルデュス醸造所 ]
グリセットサン・フーヤン [ サン・フーヤン醸造所 ]
アベイ・デ・ロック [ アベイ・デ・ロック醸造所 ]

ベルギービールの分類その3:ホワイトビール(ヴィット)

ホワイトビールは小麦ビールとも呼ばれ、小麦を多く使用したエールです。名前の通り白色~淡色のビールで、ベルギーの場合は伝統的にオレンジピールやコリアンダーで香り付けを行います。ほんのりスパイシーで、フルーティーで、軽快な味わい。後味すっきりなほのかな酸味。切れが良くクリーミーな泡立ちなど、ビールが苦手な人にもとにかく飲みやすいのが特徴です。特に夏場の樽生は日本では大人気です。

代表的な銘柄 [醸造所]

ヒューガルデン・ホワイト [ ヒューガルデン醸造所・他]
ヴェデット・エクストラ・ホワイト [ デュベル・モルトガット醸造所 ]

ベルギービールの分類その4:レッドビール

レッドビールは赤大麦を麦芽にして、オーク樽で1年~数年寝かせて熟成させるエールです。レッドの名の通り、液色はアンバー系。乳酸菌の働きを活かした酸味のある味が特徴で、樽に由来するタンニンの渋み、味付けに混合されるフルーツやハーブの芳香等もあり、酸っぱく爽やかな飲み口と複雑な芳香のビールとなります。その液色から、赤ワインに良く似ているとも表現されます。

代表的な銘柄 [醸造所]

デュシェス・ド・ブルゴーニュ [ ヴェルハーゲ醸造所 ]
ローデンバッハ・クラシック [ ローデンバッハ醸造所 ]
ブルゴーニュ・デ・フランダース [ ティママン醸造所 ]

ベルギービールの分類その5:セゾンビール

ホップの苦みとドライな酸味を特徴とするエール。かつて水道が整備されていなかった時代、真夏に生水を飲むことは危険な行為であり、農家では休耕期(春先)を利用して夏用の安全な飲み物としてビールを仕込んでいました(セゾンビール=季節ビールという名の所以)。このようなルーツから、夏場でも保存がきくように苦く、ひき締まっていて、全体として強い味のビールが多いです。

代表的な銘柄 [醸造所]

セゾン・デュポン [ デュポン醸造所 ]
セゾン・レガル [ デュ・ボック醸造所 ]
セゾン・ヴォワザン [ ジェアン醸造所 ]

ベルギービールの分類その6:ゴールデンエール

淡い金色の液色をしたエール。一般的なピルスナーよりも美しい金色とされ「ゴールデンエール」と命名されました。香りの強い麦芽や砂糖を用いて濃い味に仕立てられるものが多く、エール系らしくまろやかな口当たりと、ハッキリとビールらしい味・香りが特徴です。ビール好きの最初のベルギービールに良いかもしれません。

代表的な銘柄 [醸造所]

デュベル [ デュベル・モルトガット醸造所 ]
デリリウム・トレメンスギロチン [ ヒューグ醸造所 ]

ベルギービールの分類その7:ランビックビール

前述の通りランビックはベルギー伝統の自然発酵ビールです。製法によって様々なタイプがあり、以下の3タイプは日本でも良くお目にかかります。

グーズランビック

熟成1年ほどの若いランビックと、2~3年の古いランビックを混ぜて瓶詰めし、瓶内発酵させるもの。

フルーツランビック

若いランビックに天然果汁を加え、瓶内発酵させるもの。

ファロ

出来上がったランビックにその他のビールや、砂糖などを加え、甘口に仕上げるもの。

主なブランド [醸造所]

カンティヨン [ カンテイヨン醸造所 ]
シャポー [ デ・トロフ醸造所 ]
ティママン [ ティママン醸造所 ]
ベルヴュー [ ベルヴュー醸造所 ]
リンデマンス [ リンデマンス醸造所 ]

ベルギービールの分類その8:フルーツビール

完成したビールに果汁を加えたものをフルーツビールと呼びます。基本的にはホワイトビールをベースにしたものを指しますが、フルーツランビックもこの仲間に入れる場合があります。低いアルコール度数とフルーティーな味わいからアルコールが苦手な人にも飲みやすく、カクテルやサワーの代わりに楽しむ人も急増しています。

代表的な銘柄 [醸造所]

ミスティック・チェリー [ ハーヒト醸造所 ]
ニュートン(青リンゴ) [ ルフェーブル醸造所 ]
モンゴゾ・マンゴー [ ヒューグ醸造所 ]

ベルギービールの分類その9:ピルスナー

ホップの苦みが効いたチェコ発祥の淡色のラガー。いわゆる「ビール」と言えばほぼピルスナーのことを指すと言って良いほど、世界中に普及しているスタイルです。実は多種多様なビールを産出するベルギーでも、ビールの生産量自体は、種類としては少数派のピルスナーに偏っています。

代表的な銘柄 [醸造所]

ステラ・アルトワ [ ヒューグ醸造所 ]
ジュピラー [ ピードボーウフ醸造所 ]
プリムス [ ハーヒト醸造所 ]

ベルギービールの分類その10:スペシャルビール

ベルギービールにはその他にも、上記分類に当てはまらない地ビールが数多くあり、まとめて「スペシャルビール」と区分されています。

代表的なブランド[醸造所]

ゴロワーズ [ デュ・ボック醸造所 ]
ブルッグスゾット [ デ・ハーフ・マーン醸造所 ]
グーデンカロルス [ ヘット・アンケル醸造所 ]

トリビア:実は「発泡酒」なベルギービール

日本の酒税法では、定められた原料以外の材料を加えたビールは、全て発泡酒の扱いになります。ベルギービールの多くは日本の基準では発泡酒に該当するため、ラベルを見て「おや?」っと思うこともあるかもしれません。でも、ニセモノというわけではありませんのでどうぞご心配なく!本場のベルギーボールを飲みにぜひベルギーへ!ベルギーまでの日本国内線はエアアジアジャパンが便利です。

参考・参照

ベルギービールを楽しむ会 事務局 の紹介

「ベルギービールを楽しむ会」事務局用のアカウントです。

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